《MUMEI》

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取り合わないわたしに納得しないようで、彼女はさらに食い下がる。

「何か、あったの?お父様、具合良くないとか…」

その台詞に、わたしのペンの動きが止まる。


おとうさん。

最近、全くと言っていい程、見舞いに行っていない。


父の容態がかなり悪くなっているというのは、母や妹の睦月から、毎日のように聞いていた。時間がある時で構わないから、父に会いに行くようにと、口うるさく電話なりメールなりをしてくる。

後悔しないために、今出来る限りのことをしろ、と。


もちろん、父に会いたい気持ちはあった。でも近頃は、心が疲れきっていて、仕事が終わると、もう脱け殻のようになってしまい、そのあと、病院へ行く気力も残っていなかった。


わたしは心配顔の同僚を見遣り、にっこり微笑んで見せた。

「大丈夫。ちょっと、疲れてるだけ」

軽い調子で答えると、彼女もそれ以上踏み込めなくなってしまったのか、「…そう?」と曖昧に唸った。

「何かあったら、すぐ言ってね」

そう言い残すと、彼女はわたしのデスクから立ち去って行った。

彼女が行ってしまってから、わたしは両手で頭を抱えた。考えなければならないことばかりあるのに、頭の悪いわたしには何一つ処理することが出来なくて、そのジレンマに思い悩むばかりだった。


どこへ進んでもどん詰まり。


この負のスパイラルから、どうやったら抜け出せるのか。そんなことばかり、考えていた。



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