《MUMEI》

歌はそれなりに上手くいったような気がする。
二郎を想いながら毎日歌っていたからだろうか。

それよりも、二郎が酒を勧められているのが気掛かりだ。
泥酔するとあれは危ないのだが、黒い着物の男と学生は交互にわんこそばのようにグラスに酒を注いでいる。

今すぐにでも駆け付けてやりたかったが、歌の後に一言添えないといけないので非常にもどかしい。

耳が赤い二郎の姿にこっちは緊張する。

既に二郎は一足靴を脱いでいた。
泥酔すると二郎は脱ぐ悪癖がある。
普段がストイックな分、俺と二人きりのときに脱ぐのは大いに歓迎なのだが、こういう人の多い場所では止めてほしい。


「楠、奈保、結婚おめでとうございます……」

二郎の頭が揺れている……。

「学生時代に二人と知り合い、当時から二人は夫婦のようで……」

二郎が衿に手を掛けはじめた、苦しそうだ。


「……あ……あー……」

お酒はもう無いらしく、スタッフに断られたようだ。


「……なんだっけ。」

二郎に気を取られて何を話していたか忘れてしまった。


「お兄ちゃん、お幸せに。」

楠の妹が助けてくれた。


「……おめでとう。いいかんじの家庭築いてください。」

お陰で簡潔に纏めることが出来た。

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