《MUMEI》
・・・・
 ある兄妹が死闘を繰り広げていたころ時間を同じくして王都の出入り口である橋の前でも新たな戦いの匂いを漂わせていた。
 一触即発。何かほんのわずかな変化でさえも勝負の合図になり得るであろう状況の中、見る影もなくなった街並みが広がるそこに、二人は対峙している。
 家の残骸を背に立つファースに、行く手を阻むように橋の前に立ちふさがる兵士。放り投げられたヘルメットは宙を舞い、兵士の隠された素顔が露わにされた。
 「あんた、あの時の・・・」
 兵士の顔を見てファースは心の底から驚いた。兵士は昨日の昼間、市場でファースを追いかけてきた男だったからだ。よく梳かされ整った髪の毛に、すっと通った目鼻立ちは印象的で忘れる事が出来なかった。それは彼の執拗な追跡に追い込まれ、ついにはあの能力まで使う破目になってしまったのだ、忘れられるはずがない。

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