《MUMEI》
ブラックジョーク 4
マキは実験室のドアをノックすると、「おはようございます」と言いながらドアを開けて中に入った。
さほど暑くは感じない。蒸し風呂は大袈裟だ。白衣を着たままでも大丈夫な室温だと、マキは思った。
「い…」
「え?」
お互い顔を見合わせる。マキは硬直した。白衣を着た数人の男女も、口を半開きにしたままマキを見ていた。
次の場面。
マキがアイを追いかけ回していたことは言うまでもない。
「ちょっと、ひどいじゃないですか!」
怒りのマキは、水着姿のままアイを追いかけ回す。アイは笑いながら狭い部屋の中を逃げ回った。
「出血大サービス。そんなに怒らないの」
「怒りますよ! 恥ずかしいじゃないですか!」
マキはアイの白衣を掴んだ。
「ちょっと待って、暴力反対」アイはまだ笑っている。
「セクハラですよ、完全に」マキの顔は気の毒に真っ赤だ。
「ステーキご馳走するから許して」
「いいです。それよりこういう意地悪はしないと約束してください」
「わかった約束する」
マキは心配になってきた。前途多難だ。果たして、こんなリスキーな上司のもとで働いて、乙女の純情が守られるか、不安になってきた。
でも今は忍の一字だ。石の上にも三年という諺がアメリカで通用するかどうかは定かではないが、マキは研究テーマの魅力に心をくすぐられていた。
アイの研究チームのメインテーマは「タイムスリップは可能か?」である。
好奇心旺盛なマキの瞳は、燃えていた。

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