《MUMEI》
・・・・
 思い出しただけでも虫唾が走り歯軋りしてしまう。それほどファースはあの男を厭っていた。その憎き兵士、アランがスラスラと言葉を紡いでいく。
 「君のことはいろいろと聞かせてもらった。彼女と共に暮らしていたこと、連続殺人犯であること、そしてその不思議な力を持つ眼のことも―――僕たちとは造りがまったく異なるそうだね、あれも」
 ファースの能力を知ってなお、兵士に恐怖というものは感じられなかった。
 先ほどまでの同僚達は皆ファースを化け物でも見るような目で見て、人智を超えた力に足を掬われていた。
 だが、この男はそんなものを微塵も感じさせない、漂わせているのは自分よりも実力の劣った者を見るような余裕ぶった表情だった。
 「ああ、だからどうした。そんなこと今さら言ったところで、俺は引き下がるつもりはねえ」
 その余裕に満ちた表情が癇に障る。彼が眼の力を知ったところで何が変わるというわけでもないだろうにアランという男は悠然と立っている。

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