《MUMEI》
・・・・
 彼女の目の前で全てを明かしていくアランの言葉を聞いても、ファースはもう動じはしなかった、覚悟は出来ていたから。
 ファースに横へ押し飛ばされ、勢い余り倒れたクレアは翻ったスカートを直すことすら忘れ、目の前で繰り広げられる光景をただ見ていることしか出来ずにいた。
 ファースは自分を人質に取っていた人物で、恐れ、嫌う対象であるはずなのだが、クレアはそんな彼を心配していた。何の前触れもなく家が崩れ落ちてきて彼が数十という多くの兵士を相手にせずに済んだことに胸を撫で下ろすが、また新たな兵士が現れ、あろうことか兵士はファースが連続殺人犯だと口を開いたのだ。
 呆然としていたクレアは耳を疑わずにはいられない。何より彼もそれを否定することもなく頷いたことが信じられなかった。
 「君はあの仮面の男の素性を知っているのか」
 緊迫の空気の中、アランは開眼者であるファースに仇である男のことを尋ねた。異常という共通点を持つ彼らは繋がっているのかもしれない、その可能性はゼロとは言い切れないからだ。
 アランの問いにファースは舌打ちをして誰が見てもわかる嫌そうな顔を見せる。
 「俺たちを助けたあのいけ好かない野郎のことか」
 「そうだ、君達には格外という共通点がある。結託している可能性は十分あるだろ」
 仲間である可能性があると言われただけで、ファースは口の端をピクピクと引きつらせ、さらに腹立たしく感じた。
 ファースが仮面の男を嫌っている理由は山ほどあった。遙か高みから見下ろしたかのような態度、人殺しでありながら気取り、まるで貴族であるかのようなすかした仕草。
 「はっ、結託だと?俺はあいつのことが気に食わねえんだ、誰があんな奴と手なんて組むかよ」
 思うままをぶちまけ、ファースの瞳が強く瞬いた。
 目の前の障害を排除しようとイメージする。男の四肢を分断、そして六つに裂かれたそれらを微塵に。判別不能にまで切り刻む。

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