《MUMEI》

 「いいテキストがあって良かったね」
目的の参考書を購入してその帰り道
両の手一杯に抱えるほどのそれらを購入した二人は
その重さに脚を取られ、ゆっくりと歩いていた
重い荷にふらつきながらの岡本のソレに
岡部は微かに笑いながらそうだなを返しながら
その荷を岡本から取って上げていた
「荷物……」
「……テメェ見てると危なっかしい。あとは俺が持つ」
「でも、全部なんて重たいよ」
「ふらついてる奴に言われても説得力ねぇよ」
いいから貸せ、と笑う声を含ませながらの岡部
ソレを取り上げられ結局岡本は手ぶらに
全ての荷を抱えながら
だが其処はやはり男性。ふらつく事無く軽々と岡本の前を歩いていった
バイクへと何とか全ての荷を積み込むと一息
「……買い物ってのはやっぱ面倒くせぇもんだな」
疲れた様子の岡部へ
岡本は暫く待ってくれるよう言うとくるり踵を返す
小走りに何処かへと向かい、そしてすぐに戻ってきた
その手には缶ジュース
息を切らしながら態々買ってきたらしい
「ミルクココアとミルクティー、どっちがいい?」
「……甘いもんしか選択肢にねぇのか」
「え?」
「いや。何でもねぇよ」
実の処甘いものが不得手だったりする岡部
だが岡本の好意を無下にする事は忍びないと
一言礼を伝え、ミルクココアの方を手に取っていた
やたらと甘ったるい味を想像しながら一口
だが自身が思う以上に喉が渇いていたらしく
甘過ぎるソレが、今だけは心地がいい
漸く疲れも落着き、ホッと胸を撫で下ろした
その直後
「あー!高虎とタマちゃん発見!」
男にしては甲高い声が辺りに響く
聞き覚えがあり過ぎるソレに、岡部はあからさまに怪訝な顔
向き直ってみれば、その溜息は益々深くなっていった
「タマちゃんだ〜。ハグ〜」
出くわしたのは小森
買い物でもしていたのか
その小脇には巨大すぎるクマのぬいぐるみが
ソレを指摘してやる前に
岡本は小森に縫いぐるみ毎抱きしめられてしまう
「いいな〜。二人でデート。羨ましい」
「デ、デート!?」
小森の言葉に他意はないのだが、つい過剰は反応をしてしまう岡本
動揺につい岡部の方を見やれば
最早訂正してやる事すら面倒だと言わんばかりの溜息が返ってきた
「……テメェこそ、一体何してる?」
「僕?僕はね、買い物。きれいな布見つけてさ。これでタマちゃんに服作ってあげるんだ」
訝しむばかりの岡部とは打って変わり
楽しみにしてて、と岡本へと楽しげに布を広げて見せてくる
その弾みで、手放されてしまったクマの縫いぐるみが道端に転がってしまっていた
「……華。そんなデカブツ道端に転がすな。邪魔だ」
「それ、さっきクレーンキャッチャーで取ったんだよ。でも、持って歩くの疲れちゃったし、高虎にあげる」
「……いらん」
「何で?可愛いのに。あ、でもやっぱり可愛らしいものはタマちゃんにあげるべきかな」
「え?」
「って訳で、はい。可愛がってあげてね。じゃ、また家で」
突然に巨大なクマを岡本へと押しつけると
ウインクを一つ投げて寄越しながらその場を後に
身軽になったばかりの岡本だったが、また巨大な荷を抱える羽目になった
「……どうしよ。コレ」
自分の背丈ほどもあるソレを眺めながら岡部へと訴えれば
だがどうするか考えなどまとまらず、暫く呻いた後
近場にあったコンビニにて、岡部は何故か紙紐を購入してきていた
岡本へ後ろを向く様言うと、その背にクマを覆いかぶせ
落ちないよう紐で結えつけてやる
「何?この格好……」
まるで子供をおんぶする様なその格好に異を唱えれば
岡部は笑う声を懸命に堪えているのか
肩を揺らしながら腹を押えていた
「お前、ソレ似合うな」
「嬉しくない!」
頬を膨らませてはみるモノの、二が多すぎるのは事実な訳で
大人しくバイクの後部座席に座っているしかない岡本は
結局その人形を背負って乗る他ない
「乗ったか?」
「……乗ってる」
安全確認に聞いてくる岡部へ
不機嫌さ丸出しで岡本が岡部へとしがみ付けば、すぐにバイクは走り出す
走ればそのスピードに背負っているクマが重力に負けその身を仰け反らせて

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