《MUMEI》 . 間もなく店員がわたし達をテーブルまでにこやかに案内してくれた。 「何がいいかなー」 席に着くなり隆弘は早速メニューを取って、真剣に読み始めた。 わたしも彼にならい、メニューを広げてみたものの、名前と説明書きしか載っておらず、よく判らなかった。 隆弘も同じだったようで、「写真がないからよく判らないな…」とぼやき、向かいに座ったわたしの目を見つめる。 「皐月さんの好きなもの、頼んでいいよ。任せる」 丸投げされてわたしは戸惑った。『任せる』と言われても、わたしだって何を頼んだら良いのか、判らないと言うのに。 困惑しつつ、わたしは一生懸命メニューとにらめっこをする。その脇で、隆弘が同じくメニューを見つめながら、呟いた。 「ボリュームがあるやつの方がいいよね。がっつりしたやつ」 「がっつり、ですか…?」 「出来たら、豚肉使ってるやつがいいな」 「ぶ、豚肉ね…」 「チーズとか入ってるの、旨そうじゃない?これ、いいなぁ…」 そこまで聞いて、わたしはメニューから目を離し、目の前にいる隆弘を半眼で睨んだ。 「…全然、任せてないじゃない」 わたしが文句を言うと、隆弘はおかしそうに笑った。「ホントだ!」と、眩しい笑顔で。 それが、無邪気で可愛らしく見えて、わたしもつい頬を緩ませた。 結局、二人ともオーダーが決まらなかったので、隆弘は店員を呼び、ビールを二つと、おすすめのメニューを二人前、適当に注文した。 間もなく店員がビールを持ってきてくれたので、わたし達はそれで乾杯をする。 「今日も一日、お疲れさま〜」 お互いのジョッキをぶつける。ゴン…と重々しい音と衝撃を感じた。 . 前へ |次へ |
作品目次へ 感想掲示板へ 携帯小説検索(ランキング)へ 栞の一覧へ この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです! 新規作家登録する 無銘文庫 |