《MUMEI》 . 隆弘はビールを一気に半分まで飲むと、眉間にシワを寄せる。 「仕事の後は、ビールに限るね」 そうコメントした彼に、わたしは笑った。 「何か今の、オジサンくさい」 「あ、バカにしたな?」 「だってー」 「仕方ないだろー。ホントにオジサンなんだから」 「あらら、認めちゃったねぇ」 二人とも笑いながら、そんな軽い会話を繰り広げられる。わたし達は夢中で話をした。もちろん、話題のほとんどは、仕事のこと。 「毎日、毎日、色んな人に頭下げて、走り回ってさ。ホント疲れちゃうよ」 電話と同じように愚痴をこぼす隆弘を見つめながら、わたしはテーブルに頬杖をつく。 「大変ですねぇ」 「やってる内容はたいしたこと無いんだけどね」 「そんなことないでしょう?」 「いやいや、俺より下のヤツの方がずーっとツラい思いしてるって。それ考えたら、俺なんかまだまだだよ」 彼はため息混じりに呟いた。 そんな会話をしている間に、先程オーダーしたお好み焼きがどんどん運ばれてきて、あっという間にテーブルがいっぱいになってしまった。 「早く食べちゃおう!」 そう言うなり隆弘はワイシャツの袖をたくしあげ、目の前の鉄板でお好み焼きを作り始めた。わたしもお喋りをやめて、その作業を手伝う。 沈黙の中で、 「…今日、元気ないね?」 「何かあったの?」と唐突に尋ねられた。 わたしは顔をあげて隆弘を見る。彼は鉄板を見つめたまま、わたしの顔を見ようとしなかった。 わたしが笑いながら、「そうかなぁ?」と誤魔化そうとすると、隆弘は「うん」と唸る。 「…何か無理に明るく振る舞ってる気がする」 ストレートに言われて、ドキリとした。バレていたのか。そう思った。 . 前へ |次へ |
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