《MUMEI》 . その表情がとても痛ましく見えて、わたしはいたたまれなくなり、胸の中でくすぶる熱い想いを吐き出すように、一気に言葉を紡いだ。 「最近、父の具合が特に良くないみたいで…もうダメかもしれない。職場の人達もわたしに気を使ってくれて、少しでも父の傍にいてあげるようにって言ってくれてるのに、全然、わたし、ダメで…」 一息にそこまで口にして、胸が押し潰されるような息苦しさを感じた。気づけば、涙を流していた。自分の愚かな行いを言葉にするのは、想像以上の苦痛を伴った。 ―――苦しかった。 自分がどれだけたくさんの人を裏切っているのか、目の当たりにして。 言葉に出して、そこで初めて自分がどれだけ醜い人間か、思い知らされて。 隆弘は、ただ黙ってわたしを見つめていた。それに気がつき、泣きながら、わたしは笑う。 「…ごめんなさい。こんな話、聞きたくないよね」 軽やかに笑って涙を拭うと、隆弘は小さく首を振ってため息をついた。 「…俺、自分がまだ、そういう状況に直面したことないから、何て言っていいのか…気の利いた言葉、出てこない…」 真剣な声でそう呟いた。わたしは首を激しく振る。 「本当に気にしないで。こんな話をしたわたしが悪いの」 そう言いきって、わたしは目の前の鉄板に目を向けた。熱く熱された鉄板の上には、美味しそうなお好み焼きが湯気を立てている。 わたしは顔をあげて、隆弘に微笑んだ。 「ほら、出来たよ!早く食べましょう」 わざと明るい口調で言って、二人の小皿にお好み焼きを取り分ける。その間、隆弘の顔を見ないようにした。 彼が、わたしの顔をずっと見つめていることに気づいていたから。 . 前へ |次へ |
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