《MUMEI》

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亜美はビールグラスを手に持ってそれを一口飲み込むと、何かに気づいたように「あ!」と声をあげて、いきなりわたしの方へ振り返った。

「そういや、大丈夫?」

尋ねられて、わたしは瞬いた。恐らくはこの間の電話のことを言っているのだ。

わたしはフッと淡く微笑んで、「なんとか、ね」と曖昧に答えた。亜美は身を乗り出す。

「心配したんだよ。死にそうな声で、『もうダメかもしれない』とか言うんだもん!」

そう言われて、わたしは笑った。「ごめん、ごめん!」と軽い調子で笑い飛ばす。

「あの時、ちょっと落ちててさ…変なこと言っちゃったよね」

はぐらかそうと思った。相談するのが、気が引けた。
こんな明るい飲み会には似つかわしくない話だったから。

すると亜美はそれに気づいたらしく、「誤魔化さないで」と強い口調で言った。

「ちゃんと話、聞くよ。たいしたアドバイス、出来ないかもしれないけどさ」

諭すように言われて、わたしは俯いた。黙り込んでいるわたしを見て、少し間を置こうと思ったのか、亜美は巡回していたウェイターを捕まえて、わたしのビールを注文してくれた。

亜美はわたしの顔を覗き込み、優しく囁く。

「何でも話して…それだけでも、違うと思うよ?」

優しい響きに、わたしは泣きそうになった。

込み上げてくる色んな感情を必死に抑えて、わたしは顔をあげ、亜美の顔を見つめた。そして、無理やり笑みを浮かべる。

「どうしたらいいのか、判らなくなっちゃったんだよね…」

唐突に切り出すと、亜美は眉をひそめた。その顔が何だか可笑しくて、わたしはフフッと笑う。

彼女から目を逸らし、ゆっくりと話し始めた。


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