《MUMEI》

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「…前に話したでしょ?知らない男の人に学校で、声かけられてって…」

そこまで言うと、亜美は深々と頷き、「ナンパされたってやつ?」と確認するように言った。わたしは笑って続ける。

「…お互いに連絡取り合うようになって、今度、会う約束したって言ったじゃない?」

「うん。あの時の皐月、楽しそうだったわ」

「ちょっと浮かれてたの。男の人とデートなんて久し振りだったし…それで昨日、やっと二人で会ったんだ」

「へぇ!昨日!?で?どうだった?感じ良さそうな人?」

亜美が相槌を打ったところで、ちょうどウェイターがビールを運んできた。グラスをテーブルに置き、立ち去った彼の背中をじっと目で追いながら、わたしはぼんやり「結婚…」と、呟いた。

聞き取れなかったのか、亜美が「え?」と尋ね返してくる。


わたしは彼女の顔をゆっくり見遣って、にっこり笑う。

「結婚してるんだって…子供も二人、いるんだって言ってた」

それを聞いた亜美はあからさまに嫌な顔をした。「どこかで聞いたシュチュエーションね…」と自虐的に言う。

「要するに、既婚者だったからガッカリしてるの?」

亜美の問いかけに、わたしはドキッとした。そんな気持ちも無かった訳ではないから。

慌てて誤魔化すように笑い、「違うよ〜!」と否定して、ゆっくり俯いた。

目の前に置かれたグラスはキンキンに冷えているようで、その表面にうっすらと細かい水滴が張り付いている。


―――その柔らかな白を眺めて、


「彼、『モト』に似てるんだよね…」


掠れた声で、囁いた。



近くのテーブルで、明るい笑い声があがった。ぼんやりと視線を向けると、そちらのグループはかなりテンションがあがっているのか、男子の一人がテーブルの上に乗り出そうとしている。


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