《MUMEI》

(まぁ、つい最近まで赤ん坊だったからね…)

「んちゅんちゅ……ぷはぁ〜♪」

ハンカチでくるみちゃんの口周りを拭くと、また元気に芝生の周りを走り回りに行ってしまった。

「アキラしゃん♪」
「はいはい」

芝生で遊んできたくるみちゃんがまた戻ってきたのでちょっとだけ飲んでいたジュースをくるみちゃんに飲ませる。

ほんのり甘酸っぱくていい香りがして、でもバナナだから腹持ちも良さそうでこれだけでもおやつになりそうなジュースだった。

それをくるみちゃんはさっきみたいに飲んでは遊びに行き、ボールを投げては持ってきて一口飲んでは芝生を駆けずり回る。

(小鳥に餌付けしてるみたいだ…)

餌付け…。

「あっ…」

そういえば思い出したけど、夕飯の用意とか全然してないんだった…。

いつもはこのくらいの時間に家に帰り着いて夕飯の準備をするんだけど、今日は何にも手をつけていなかった。

(…克哉さんとトリスタンさんがしてくれているんだろうか?)

帰り際にスーパーとか屋台で何か買って行った方がいいかな…とも思ったけれど、余計な事はしなくていいのかもしれないし。

それに、トリスタンさんが居るから任せても大丈夫だろう。

「あきらしゃ〜ん♪」

子犬のようにはしゃいで飛びついてきたくるみちゃんを抱き上げると、残っていたジュースを全部飲ませてカップをお店にあったリサイクルボックスに持ってった。

「まだお遊びしゅるの?」
「そうだねぇ…お兄ちゃん達から連絡が入る筈なんだ…」
「…お兄たんじゃなくってぇ、パパだよ〜♪」

そう言うとくるみちゃんは僕に抱きついてきて、キスとは言えないけど僕の頬や唇辺りに小さな唇をくっつけてきた。

「ん…寒いの?」
「んにゅ〜///」

くっつけてきた唇や頬がちょっと冷たくなっていたので、くるみちゃんの着ていたジャンパーのフードを被せるとその身体をギュッと抱きしめた。

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