《MUMEI》 . それからわたしと元治は、色んな話をした。 「『誰なのかなー』って気になってたら、バスケ部の後輩がクラスメイトだって言い始めてさ…ほら、中沢って奴。知ってるでしょ?そいつから山本さんの名前、教えてもらったんだけど…なかなか話す機会もなかったからさ」 ビールを飲みながら軽やかに笑う元治を、すぐ隣で眺めているのが、信じられなかった。 ぼんやり彼の横顔を見つめていると、近くで騒いでいたグループが目敏くわたし達を見つけて、「そこ、何してんだよ!」と喚きだした。 「モト、ナンパはまずいだろ!彼女、怒るんじゃね?」 ギャハハと下品に笑うOBを見て、元治は「バーカ!」と笑った。 「怒られねーよ。俺、今フリーだし」 あっけらかんと、元治は言った。 思いがけないカミングアウトに、皆、一瞬静まり返って、それから一気に色めき立つ。特に、女の子達が。 「センパイ、ほんとっ!?」 「今、フリーなんですかっ!?」 「ラッキー!あたし、頑張っちゃおうかな!」 酔っ払ったOB達も話に乗っかってくる。 「何?モト、マジでフリー?」 「この前、付き合い始めたばっかじゃなかったっけ?ほら、あのミスキャンパス?」 「そーだ、そーだ!めちゃめちゃ美人だったよな?もう終わったの?」 物凄い勢いでまくし立てる彼等に、元治は余裕があるのか、ヘラヘラと軽薄な笑顔を向けていた。 「付き合ってみたんだけど、何か思ってた感じと違っててさー。色々メンドーだから、別れちゃった」 満面の笑顔で、さっぱりと答えた元治に、OB達が非難の声をあげる。 「もったいないッ!」 「これだからモテる奴は!!」 「ずりーよ、いつも元治ばっかり!」 明らかに妬みが混じっていた。 そんな騒がしい彼等を元治は、「はいはい」と軽く受け流し、それから、一部始終を垣間見て、隣で呆然としているわたしを振り返った。 「…そんなワケで、俺、フリーだから」 やんわりと微笑まれ、「改めてよろしく」、そう言われた。何故、元治がそんなことを言ったのか、あの時のわたしは、よく判らなかったけれど。 . 前へ |次へ |
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