《MUMEI》

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元治はビールを一口飲んで、「…山本さんは?」と吐息混じりに尋ねてきた。

急に尋ねられて、わたしは「え?」と目を丸くする。そんなわたしの様子を見て、元治は「小動物みたい!」と楽しそうに笑った。

「山本さんは彼氏、いるの?」

改めて尋ねられ、わたしは素直に首を横に振った。ずっと、元治だけを追いかけていたから、男の子とお付き合いをしたことが、一度もなかった。

わたしの反応を見て、元治はフッと目元を緩ませる。わたしは何だか気恥ずかしくなり、気をまぎらわせようと、カクテルグラスを唇に寄せた。

彼はわたしから目を逸らして、手前にある枝豆が入った小鉢に手を伸ばした。

「じゃあ、好きなタイプは?」

また、唐突に思いがけないことを聞かれて、わたしはカクテルを吹き出しそうになった。元治は「大丈夫?」と、ケラケラ笑う。

わたしは口元を片手で押さえながら、「タイプ、ですか?」とやっとの思いで繰り返した。

元治は深々と頷きながら、続ける。

「どんな奴が好き?」

わたしは彼の目を見つめて瞬いた。彼の瞳は何とも言えない深い色をしていて、真意が読めない。

『わたしが好きなのは、あなたです』

それが本心だったが、まさかそんな告白をする勇気もなく、わたしは戸惑いながら、言葉少なに答えた。


「嘘をつかない人が好きです…」


自然と口から、そんな言葉が零れた。本当に、ごく自然と。

元治は首を傾げて、「ウソつき嫌いなの?」と尋ねてきた。わたしは頷く。

「そりゃそうですよ。ウソつきが好きって人は、いないでしょ?」

当然のように言うと、元治は一瞬キョトンとして、それから「確かに〜!」と大笑いした。

「そんな物好き、いないわな」

「当たり前です。そんな人がいたら、会ってみたいわ」

わたしも笑いながら答えると、またカクテルを飲んだ。


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