《MUMEI》 . 元治はゆったり微笑んで、わたしの方に身を乗り出し、 そして、 「じゃ、俺にしておきなよ」 信じられないようなことを口にした。 カクテルを飲んでいたわたしはつい、むせてしまう。 ゴホゴホと咳き込むわたしの背中を、元治は「何やってんの?」と、笑いながら優しく擦ってくれた。 わたしは顔をあげ、涙目で元治を睨む。 「いきなり何言ってんですかッ!」 怒ったようにまくし立てると、元治は楽しそうにケラケラ笑う。そして、平然と言うのだ。 「ウソつき嫌いなら、俺、おすすめだよ?嘘つかないし、正直だし。俺達、気が合うと思うんだよね」 わたしの目を覗き込み、「どうかな?」と小首を傾げて見せた元治の表情は、いつになく自信に満ち溢れていた。 見つめ合った瞬間、 カッと全身が熱くなる。 わたしはたまらず目を逸らし、「からかわないでくださいっ!」と大きな声で言った。 「先輩、飲み過ぎ。ダメですよ、未成年なんだから」 自分でも意味の判らない言葉を口にしながら、わたしは自分のグラスを手に取って、席を立った。これ以上元治の傍にいたら、心臓が破裂してしまうかもしれない。 . 前へ |次へ |
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