《MUMEI》 忍び寄る影―あ、あれ美味しそう。 ふと綾乃は軒下のクレープやに目を止めた。 「ねぇ、瀧、ミツ、あのお店ー、あれ?」 再び視線を戻すと、夕方の人混みに二人の姿は消えていた。 「ヤダ、嘘、はぐれちゃった?」 慌て周囲を見る、がそれらしい影は見つからない。 その時― ―キンッ― すぐ後ろで耳慣れた音がした。 シルバーのプレートと鎖が当たる音。 「瀧!良かった、はぐれたのかと…」 振り替えって人違いだったことに気づく。 そこには瀧よりも少し背が高い灰黒の短い髪の男が立っていた。 「ご、ごめんなさい、人違いしちゃって。」 「あぁ、気にしてへんから大丈夫、瀧の知り合い?」 「え?あ、はい…。」 そうして再び目を合わせた男は笑っていた。 獲物を見つけた獣のような光を湛えた灰銀の瞳で。 前へ |次へ |
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