《MUMEI》 『恋』というもの. 近くのテーブルから、どっと笑いが沸き起こる。酒に酔った同窓生達が、どうやら王様ゲームを始めたようで、かなりの盛り上がりを見せていた。 ―――モトはわたしのこと、好きじゃない。 そう呟いて黙り込んだわたしに、亜美はため息をついた。 「…そんなことないと思うけど」 ぽつんと聞こえた彼女の声に、わたしはゆっくり顔をあげる。 亜美は、ジョッキを手に持って、思いを巡らせるように視線を虚空に流すと、さらに続けた。 「好きでもない子と、そんな長く付き合わないよ」 「6年、でしょ?」と、わたしに向かって首を傾げた。元治とわたしが付き合った期間だ。わたしは頷く。 それを確認して亜美はまた息を吐いた。 「先輩もちゃんと好きだったと思うよ…」 そう言って彼女はわたしから目を逸らすとビールを一口、口に含んだ。 わたしは淡く笑って、首を横に振る。 「都合が良かっただけだよ。モトにしても、この前出会った男の人にしても」 元治は、あの飲み会で偶然わたしと再会し、話が弾んだから気紛れで付き合うことになった。 隆弘も、たまたま学校に居合わせたわたしが好みだったから、声を掛けただけ。 本質的には、そう大差ない。 わたしが黙り込むと、亜美は何も言わなかった。じっとジョッキを見つめたまま、動こうともしなかった。 沈黙が辺りを覆う。 しばらくして、亜美はいきなりこちらに顔を向けると、真剣な目をする。 「…皐月は、どうしたいの?」 わたしは首を傾げる。亜美は少し苛立ったように続けた。 「先輩とヨリを戻したいのか、それとも既婚者と割り切って付き合いたいのか、一体どうしたいの?」 いきなり本題を突きつけられ、わたしは戸惑う。「…そんなこと言われても」と、歯切れ悪く口ごもると、亜美は強い口調で言った。 「言っとくけど、既婚者と付き合うのは、わたしは反対よ。あんたは、気持ちを割り切れるほど、器用じゃないでしょ?」 刺々しい響きに聞こえた。きっと、今のわたしとかつての自分の姿と重ねているのだ。 . 前へ |次へ |
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