《MUMEI》

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彼女はわたしの方へ身を乗り出すと、「よく聞いて?」と言い聞かせるように言った。

「相手が何を言おうが、あんたがどう思おうが、これは不倫なの。不貞なの。犯罪なのよ。わたしも嫌って程経験したから、そういう関係に溺れちゃうのはよく判る。でもね、どんな綺麗事並べても、不倫は不倫。それ以上でもそれ以下でもないの」

反論を許さない一般論を突きつけられて、わたしは狼狽した。


『不倫』、『不貞』、『犯罪』、『間違い』。


それらはわたしにとって、この世で最も汚らわしく、忌み嫌う言葉。わたしの純粋で美しい気持ちを、容赦なく傷つけるもの。


亜美から目を逸らしながら、わたしは「…判ってるよ」と、弱々しく呻いたが、彼女は「判ってない」とハッキリ否定する。

「全然判ってないよ。それがどれだけ惨めなものか、皐月は判ってない」

呆れたように言われたことに、わたしは少しムッとした。つい、強い口調で、「判ってるよ!」と言い返す。

「いけないことなんでしょ?汚らわしいことなんでしょ?でも、仕方ないじゃない!恋愛なんて、頭で考えることじゃないんだから!」

わたしの反論に、亜美も熱くなる。

「だから、そんなの恋愛じゃないのよ!」

「どうして?不倫でも、恋は恋でしょ!?」

聞く耳を持たないわたしに苛立ったのか、亜美は深いため息を一つつくと、「…じゃあ言うけど」と、急に低い声で呟き、

わたしの目を見て、突然言い放った。

「彼には、かけがえのない大切な人たちがいます。それは、何があっても守り抜かなければならない、尊いものです」

急に話が変わったので、わたしは眉をひそめた。

亜美は視線を逸らすことなく、じっとわたしの瞳を覗き込んで、「でも、それは…」と、続けた。



「あなたのことではありません」


後頭部を殴られたような、鈍い衝撃を受けた。わたしは目を見開く。


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