《MUMEI》

.


―――その画面を目の当たりにした瞬間、



わたしの中で、何かが終わった気がした。



ギリギリときつく絡み付いていた糸が、フッと解きほぐれたように、

今まで胸に燻っていた苦しみとか、悲しみが、


一瞬にして、消え失せたようだった。


わたしは携帯を操り、電話帳を開くと、ディスプレイに隆弘のアドレスを表示させた。

一度だけ、それをじっと眺めて、

削除ボタンを押す。



『このアドレスを削除しますか?』



その言葉の下に、『YES』、『NO』の文字が表れる。


わたしはぼんやりと、無機質なそれを見つめて、ゆっくり『NO』を選び、



―――決定ボタンを押した。



画面が一度だけ点滅して、『アドレスを1件 削除しました』との表示が出た。



それを確認してから、わたしは携帯を閉じ、顔をあげて亜美を見た。


「…これで、いいんだよね?」


念を押すわたしに、彼女は穏やかな微笑みを浮かべ、わたしの肩を2、3度、軽くポンポンと叩く。

「それでいいよ。大丈夫、上手くいく」

力強くそう言って、彼女は席を立ち、レストルームへ向かっていった。

彼女の後ろ姿を見送って、わたしは携帯をテーブルの端に置いた。じっと、その携帯を眺める。


―――隆弘は、どう思うだろう。

突然、『サヨナラ』なんて、メールが送られてきたら、なんて返してくるだろう。


僅かでも、

「悲しい」と、

「寂しい」と、

感じてくれるだろうか…。



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