《MUMEI》 . 少し考えて、やめた。 もう終わったのだ。 それに、わたしが『サヨナラ』と言っても、彼の心に何かが響くことなどない。返信も電話も無いだろう。『逃げられた』くらいにしか思わないに違いない。 だって、 隆弘は初めから、わたしのことなど、好きでも何でもないのだから。 ただ、お手軽だった。 都合の良い相手だった、だけ。 それだけだ。 卑屈な気持ちになりながら、わたしはビールに手を伸ばした。 その時―――。 それまでひっそりと黙り込んでいたわたしの携帯が、突然、震え出した。ビックリして、伸ばしかけていた手を止めてしまう。 テーブルの隅で5回、ブルブルと震えると携帯は鳴り止んだ。 静かになった携帯のランプが、ひっきりなしにチカチカと点滅している。わたしに何かを催促しているように。 …隆弘だ。 直感で、そう思った。 わたしはレストルームの方を見た。混み合っているのか、亜美はまだ姿を見せていない。 …どうしよう。 わたしは悩んだ。独りで見て良いものなのか、それとも亜美が帰ってくるのを待つべきなのか。 本心を言えば、すぐにでも見たい。でも、独りで見てはいけない気がした。 ―――見てしまったら、その時は、 わたしはたちまち、引き込まれてしまう。 二度と戻れない、遠い場所まで。 . 前へ |次へ |
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