《MUMEI》

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込み上げてくる苦しみと涙を必死に抑え、深く息を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。泣く代わりにそうすることで、このざわついた気持ちを落ち着かせようと思った。

―――出来ることなら、泣きたかった。


周りの目を気にすることなく、幼い子供のように泣きじゃくることが出来たなら、この苦しみが少しでも軽いものになるのに。


独りで悲しみにうちひしがれていると、ようやく亜美がわたしが待つテーブルに戻ってきた。

彼女はわたしの真っ赤になった瞳を見て、一瞬、悲痛な顔つきになったが、すぐ笑顔を作り、「トイレ混んでた〜」と、わざと呑気な声でおどけて見せた。

ゆったりと椅子に腰かけて、彼女は泣き出しそうなわたしの顔を覗き込む。

「今は辛いかもしれないけど、大丈夫だよ。わたしがいるじゃん!」

「元気だして!」と明るい声で言ってきた。


亜美は、知らない。

彼女が席を離れている時に、わたしと隆弘の間で、言葉のやり取りがあったことを。


彼女は、わたしが隆弘と、金輪際関わらないことを願っている。だからこそ、アドレスを消すように言ってきたのだ。


…言えない。

隆弘から、直ぐ様返信があったことを言ったら、

それに返事を送ってしまったと伝えたら、


亜美に見放されるのは、目に見えている。


それは、嫌だった。

大切な親友に、嫌われたくなかった。


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