《MUMEI》 . わたしは亜美の顔をじっと見つめ、 ニッコリ微笑んだ。 「…ありがとう」 わたしの言葉を聞き、彼女は安心したのか、明るく笑い、「よーし!」と、いきなり意気込んだ。 「皐月にいい人が見つかるように、今度婚活パーティでも行くか!?」 突拍子もない提案に、わたしは笑う。 「婚活パーティ?なんでそうなるのよー?」 「やだ皐月、知らないの?今、超流行ってるんだよ、コ・ン・カ・ツ!」 「それくらい知ってるよー。テレビで特集やってたもん」 「でしょ?前から興味あったんだよねー!一緒に行こうよー!永久就職先探し!」 「もー!亜美ってば、何言ってんのー!」 それまでの湿っぽい空気を払拭するように、二人ともケラケラと声をあげて笑った。 笑いながら、 ふと、思った。 わたしはまた、裏切った。 今度は大切な親友の善意を。 何度、人を裏切れば、わたしの気は済むのだろう。 考えても考えても、答えは出てこない。 どうすればいいのか、判らない。 そういうモヤモヤした気持ちを、今は、今だけは、忘れていたかった。 わたしを取り巻く、嫌なこと全てから、逃げたかった…。 笑い転げていた亜美が、自分のジョッキを手に取ると、「ねー!ねー!」とわたしの肩を叩いてきた。 「乾杯しよ!乾杯!」 急にそんなことを言い始めたので、わたしは「えー?」と首を傾げる。 「乾杯って、今さら何に?」 わたしの問いかけに、彼女は「決まってんじゃん!」と身を乗り出す。 「皐月の新しい門出に!」 「なにそれ!?」 「いいから、いいから!ゴチャゴチャ言ってないで、ホラ!」 テンション高く、独りでまくし立てながら、彼女は無理やりわたしのジョッキに自分のものをぶつけた。わたしはその強引さに、また笑う。 ―――その時だった。 「山本は、俺、無理だな」 大きな声が、突然響いた。中沢君の声だった。わたしと亜美はハッとして顔をあげる。 . 前へ |次へ |
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