《MUMEI》
山男
―教室、昼休み



教室前方の入り口から、一人の女子生徒が顔を覗かせて声を上げる。

「明智くんいるー?なんか山男が生物準備室来いって呼んでるよ。」

「???やまおとこぉ?」


購買から戻ってきて、パンを食べていた明智は、入り口へ顔を向けながら怪訝な顔をする。


隣の席でメロンパンを食べていた田中君が、牛乳でメロンパンを流し込み、少し笑いながら説明する。

「あぁ、明智知らないか。2年の生物教えてる山田だよ。」

「んーー?他の学年の先生まで覚えてないし。。山男?」


明智の頭の中には「カールおじさん」のようなひげ面どーんなイメージが作り上げられていく。


「あんなもっさもさした顔の先生なんかいたか?」

「…なんの話だよ。山田の下の名前、力って言うらしくてさ。名前を縦書きにすると、山男って読めるだろ。」

「山・田・力…おぉ山男。なんてネーミングセンスだ山田親。」


田中君は、メロンパンを食べ進めながら明智に目をやる。


「なんで呼ばれたか心当たりは?」

「無いな。。2年からの理科の選択も物理だし。」


食べている途中の焼きそばパンを包み直しながら、明智は頭を巡らすが、欠片も心当たりが無い。


「生物も、単位とは別にやらないか。ってお誘いだったりして。」

田中君がニヤニヤしながら思いついたように明智の顔を覗いてくる。


「それは勘弁だなぁ…」


冗談とは思いつつ、なんだかそれを聞いたら、本当にそうな気がして、明智はため息をつきながら席を立った。

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