《MUMEI》

「大丈夫でしたか?」

楠妹の言葉もマトモに入らない。
二郎の首が安定しなくてハラハラする。

一段落して、真っ先に二郎へ向かう。


「……なんばしよっと!」

勢い込んで訛った。
叫んだせいで周りに注目さられる。


「祝いの席に酒を振る舞う、普通のことが何か?」

未成年のくせによく言うな、学生め!


「ぐでんぐでんにしやかがって、しかもこれ海外のじゃないか!コースにも入っていないし……いくらするんだよ。」

アルコール度数が高そうな酒だ。


「こちらが持つから心配無用だ。」

着物の奴もそういう意味で言ってねーよ!


「お二人はそういう加減は知ってますから……。」

唯一、良心だと思っていた綺麗な兄さんが二郎の酔い潰れる様を傍観していたことも衝撃だった。
憎らしい!


「座らないのか?」

着物のオーラに気圧されていつの間にか席に着いていた。


「賑やかですね。」

悠長に綺麗な兄さんは独り言を漏らす。
座りながらも二郎の衿を正してやる俺ってば、かいがいしい。


「ンー……」

寝付いたばかりの子供みたいに二郎は唸る。
好色な視線を送る輩も居るので気が抜けない。


「よくも、こんな無防備なものを教育も無しに放置出来るものだ、普通なら繋いで閉じ込めるくらいはするけどな。」

なにこの学生……俺の知ってる学生じゃない。


「無知なものにも美学が生まれるのはお前が一番よく理解しているだろうに。」

着物の男と学生は意味深なやり取りをする。
似た者親子だ……。


「ふふ、仲良きことは美しきかなですね。」

綺麗な兄さんの笑いさえも何か裏があるように思えた。


「仲良さそうには見えないんだけど。」

ここまで似ていると親子というより、そっくりさんだ。


「奥さんは……、頭良さそうですよね?」

二郎は酔っ払って、自然に綺麗な兄さんを誘惑している。


「……誉めてくださって、ありがとうございます。」

奥さん(笑)は眩しい笑顔で返した。
ただ者じゃない。
むしろ、このテーブルで普通なのは俺だと思う。


「ななお……」

二郎が小鹿のようなうるうる黒目で訴えていた。


「ん?」

ふとした仕種に心奪われてしまう、かあいい……。


「ぎぼぢわるい」

……突然トイレに行きたがる子供を思い出す。


「それに吐けばいい。」

高価そうな器を黒い着物の旦那が差し出した。


「は、はけない……。」

二郎は吐くまで飲むことに慣れてないので、泣きながら俺を頼ってきた。

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