《MUMEI》

お湯を入れて軽くかき混ぜたコップを明智に渡すと、生徒達に山男と呼ばれるやさしげな教師は、明智を椅子に座るよう促してきた。

自分の(スティックシュガーを3本も入れた)コーヒーを持って自分も向かいの椅子に座ると、山男は明智に向かって少し困ったような顔をして話し始めた。


「善彦と、高校の頃同級生だったんだ。」

「兄さんと?じゃあ先生ここの卒業生なんですね。」

「うん。」


山男は、甘いコーヒーを一口すする。


「善彦から、ここでの事についてなんか聞いてきた?」

「いや、基本的な事は聞いてきましたけど、あんまり詳しく話したがらなくて。俺が小学生の時に全寮制のここに入って、そのまま東京の大学行っちゃったんで、会話自体まともにしたことも無いんで…」

「そうか。あいつ大学院まで進んだから、後1年位は帰って来ないだろうしな。」


その言葉に明智は少し反応する。


「兄さんが大学院行ったこと知ってるんですか?」

「ん?あぁ、未だに連絡取り合うくらい、仲は良かったんだよ。」

「へー。兄さんの交友関係とか聞いたこと無かったな。友達が先生だって教えてくれても良かったのに。」


明智が少し苦い顔をしながらつぶやくのを、山男は静かに見つめてくる。

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