《MUMEI》

「善彦が、あまり高校時代の事を語らない理由も、俺は知っているよ。」


ぽつりと、しかし、明智の目をしっかりと見据えながら、山男は言う。


「え…それは、俺をここに呼び出したのと関係あります?それともただ話の流れで言ってます?」


若干薄れてきたとは言え、生物の単位外履修勧誘がちらりと横切る明智は、山男の心の内を読もうと、負けじと目を見返した。


「気になる?」


わざと、明智の心を揺さぶるように、山男は続ける。

実際、心の中を見られているような感覚に陥りかけて、明智ははたと気付く。



「あれ、この感覚…え、でも…」


背中を嫌な汗が流れる。

一瞬気が途切れたが、それでも、明智は例の周りと隔たりのある、あの感覚に陥っていた。

明らかに、生物準備室にいて、生物準備室にはいない様な感覚が生まれている。

時計は見ていないが、恐らく、ここまで強い感覚なら時間は進んでいない。


そう確信しつつも、明智は困惑していた。


集中する原因になった、山男と視線を絡ませたまま。明らかに山男は隔たりのこちら側にいた。

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