《MUMEI》 「善彦が、あまり高校時代の事を語らない理由も、俺は知っているよ。」 ぽつりと、しかし、明智の目をしっかりと見据えながら、山男は言う。 「え…それは、俺をここに呼び出したのと関係あります?それともただ話の流れで言ってます?」 若干薄れてきたとは言え、生物の単位外履修勧誘がちらりと横切る明智は、山男の心の内を読もうと、負けじと目を見返した。 「気になる?」 わざと、明智の心を揺さぶるように、山男は続ける。 実際、心の中を見られているような感覚に陥りかけて、明智ははたと気付く。 「あれ、この感覚…え、でも…」 背中を嫌な汗が流れる。 一瞬気が途切れたが、それでも、明智は例の周りと隔たりのある、あの感覚に陥っていた。 明らかに、生物準備室にいて、生物準備室にはいない様な感覚が生まれている。 時計は見ていないが、恐らく、ここまで強い感覚なら時間は進んでいない。 そう確信しつつも、明智は困惑していた。 集中する原因になった、山男と視線を絡ませたまま。明らかに山男は隔たりのこちら側にいた。 前へ |次へ |
作品目次へ 感想掲示板へ 携帯小説検索(ランキング)へ 栞の一覧へ この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです! 新規作家登録する 無銘文庫 |