《MUMEI》

「明智、随分落ち着いているな。」

「え?あぁ、体調はもう全く問題ないですよ?」

「そうじゃないよ。」

山男はまた困った顔で笑いながら真っ暗で何も見えない空間の向こうを見据える。

「突然、でも無いのかもしれないけど、こんな不可思議な状況になって、俺は昔も今もだいぶ取り乱したんだが。」

「今更取り乱してもどうにかなるわけではないですし。これでも、びっくりはずっとしてます。座ってた椅子が見えなくなったけど、どこ行ったのかなー。とか…でも座ってる感覚はあるし。でも、準備室じゃないなら、おれは一体何に座っているんだろうとか。逆に怖くて立ち上がれないんですけども。」

人当たりの良さそうな笑いをする明智の方を山男はチラリとだけ見て、話を続ける。

「そういう考察が出来ている時点で、落ち着いている。って言うんだ。…ソウの説明を詳しくするにも、何の話をするのにも、まずしなくてはならない話がある。」

かなり真剣な目をした山男に明智もまた笑顔が消え、少しだけ不安になる。

「さっき、声だけしか出さないで消えたヤツがいるだろう?あれはサプリって言う。サプリは、この学校全体を見守ることを使命としているフェルだ。」

「ふぇる?」

「そう。学校だけじゃない、俺たちの住む地球上のあらゆる集団にフェルは憑いている。何にでも、だ。
それこそ、学校付きのフェルであるサプリを筆頭にして、うちの高校には教職員集団のフェル、生徒集団のフェル。
その更に下に、1年生のフェルもいるし、1年A組のフェル。それから、生徒会のフェルもいるし、保険委員のフェル、テニス部のフェル…さらに細かく、テニス部の1年生のフェルもいるし、その中で仲の良いグループにまでも。
とにかく、ありとあらゆる集団にフェルは憑いている。」

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