《MUMEI》

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少し離れたテーブルにいる中沢君は、わたしの方を見つめていた。嘲るような笑みを浮かべて。

彼は仲間達を見遣り、唇の端っこを吊り上げる。

「なーんかお高くとまっててさー。たいして美人でもねぇくせに、いい気になってよ。何様だっての」

中沢君に応えるように、ギャハハと品のない笑い声があがる。周りの同窓生達も、何事かとわたしや中沢君に、チラチラと視線を投げ掛けてくる。それが何とも居心地の悪いものに感じた。

中沢君はもう一度わたしの顔を見て、ニヤリと薄ら笑いを浮かべた。

「話しても面白くねーし。3回会ったら飽きるって。それ以上はゴメンだな。ま、下半身の付き合いだったらいっけどー」

また、男子達が笑う。

その笑い声に、亜美は眉をつり上げた。

彼女は物凄い剣幕で、「アイツ…っ!」と今にも席を立ちそうになった。それをわたしは慌てて「いいよ!」と、彼女の腕を引っ張る。

「放っておこうよ」

わたしの言葉に亜美は眉をひそめて、「でも…!」とわたしの手を振り払おうとしたが、「いいから!」と止めた。

「…空気悪くなっちゃうよ。せっかくの同窓会なのに」

亜美が幹事をしているのに、わたしのせいでメチャクチャになってしまうのは申し訳なかったし、何よりこんなふうに自分が目立ってしまうのが嫌だった。

わたしの気持ちが届いたのか、亜美は渋々頷いて、椅子に座り直した。それからわたしに顔を寄せて、中沢君を睨み付けながら、密やかに囁く。


「…中沢の奴、高校の時あんたに相手にされなかったの、まだ根に持ってんだよ。ホントちっさい男だね」


囁いた彼女の、刺々しい声。


その声に乗せて、わたしは記憶の糸を、ゆっくり手繰り寄せる。



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