《MUMEI》 . 亜美が大人しくなったのを確認してから、わたしは中沢君を全身全霊で睨み付ける。 わたしのことは兎も角として、 元治のことまで悪く言われるのは、どうしても許せなかった。 わたしの鋭い視線に、中沢君は同じように睨み付けてきたが、その内忌々しそうに舌打ちすると、「ウゼェなぁッ!」と低い声で唸り、わたしから目を逸らした。 わたしは深いため息をついて、それから亜美に、「先帰るね…」と囁き、同窓会の会費を彼女に預けて入口のドアへ向かった。 ―――その、わたしの背中に、 懲りもなく、中沢君の苛立った声が、飛んできた。 「消えちまえ!」 …えぇ、そうね。 アンタが言うように、 わたしも、出来れば消えてしまいたい。 だって、 そうすれば、 色々と面倒なことに、頭を悩まさなくてすむもの。 あぁ、本当に、 わたしなんて、 跡形もなく、消えてしまえばいいのに…。 ぼんやりと、そんなことを考えながら、わたしはお店の扉を開き、 その外に広がる、真っ黒な夜の闇の中へと、独り、足を踏み出した。 ****** 前へ |次へ |
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