《MUMEI》

「びっくりした、君、急に流れてきたんだよ。」

ぼくを助けてくれたのは森の色に似た玉虫色のローブを頭から被った人だ。
フードを被っていて顔は分からない。
紅色の唇と鼻筋の通った細面の顔立ちだ。

少し、物腰の柔らかさは新井田先生を思い出させた、性別は声色から予想すると男の人だろうか。


「寒くない?」

ぼくの頭を首元に巻かれているスカーフで拭ってくれた。
その時、自分の頭の毛が伸びていたことに気付いた。


「ぼくは、明石珠緒です。探し物をしていてここから落ちてしまって、貴方は……?」


「こんな人気の無いところで?!……俺はあの反対側の屋敷があるでしょう?あそこに用があったんだけど……結局、落ちてしまって……。」

つまり、ぼくと同じだ。


「な、悩んでも始まらないよね。」


「はい。」

ぼくたちはとりあえず、脱出方法を考えることにした。


「明石君、俺はえーと…………内館って呼んでね?」


「内館さん。」

口に出してみた。


「はい!」

元気に内館さんは返事をしてくれる。


「内館さん!」


「はい!」


「内館さん!」


「はい!」

調子に乗って呼びすぎてしまった。


「……疲れたね。」

内館さんは既にスタミナ切れてしまったようだ。

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