《MUMEI》 . その日から、わたしと元治は付き合い始めた。 毎日、彼と電話したり、メールしたり、手を繋いだり、抱き合ってキスをしたり。 彼の為に、化粧をして、香水を纏って、流行りのファッションに身を包んで、キレイになろうと精一杯努力して、 『恋人』として当たり前のことだけれど、 そんな些細な変化が、わたしには嬉しくて、楽しくて、とても満たされていた。 浮かれていた。 だから、気づかなかった。 二人でいる時、 元治が時折見せる、鬱屈とした表情や、声の抑揚の低さに。 わたしは、気づかなかった。 彼が、わたしに興味を無くし始めていたことに。 最初の別れは、あまりにも突然だった。 元治とのデートを控えた前日、 彼からメールが届いた。 『最低な男でごめん』 それしか、載っていなかった。 何のことかさっぱり判らず、わたしはすぐに返信したが、待てど暮らせど元治からメールが返ってくることはなく、それを不思議に思いながらも、 次の日、約束していたデートに出掛けた。 元治とのデートは、最寄り駅のすぐ傍にある公園で、お昼の12時に待ち合わせというのが決まりだった。道路沿いのベンチに座っていると、約束の時間ぴったりに元治が車で迎えに来てくれるのだった。 わたしはいつものように身仕度をして、道路がよく見渡せるように公園のベンチに腰かけた。 しかし、 約束の時間になっても、元治の車はやって来ない。携帯に連絡もなかった。 それでも、信じて疑わなかった。 きっと道が混んでいて、遅刻しているのだくらいにしか、考えていなかった。 . 前へ |次へ |
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