《MUMEI》 . わたしはベンチに座って、元治にメールや電話を時間を見て何回かしたが、相変わらず返事は無かった。 彼のものとよく似た車が通りすぎる度、わたしはいちいちベンチから立ち上がって、運転手を確認しては人違いだと気づき、がっかりしていた。 それらを何度となく繰り返し、 頭上に登っていた太陽が、いつの間にか少し傾き始めた頃、 ようやく、気づいた。 ―――元治は、来ない。 どんなに待っても、連絡しても、 ここへ、わたしを迎えに来てくれない。 前日、元治から突然、送られてきた、あのメール。 『最低な男でごめん』 あれは多分、彼の別れの言葉だったのだ。 わたしは、公園の時計を見上げた。約束のから、もう4時間が過ぎようとしていた。 もう、帰ろう。 どんなに待っても、 彼は、来ない。 それは、変わらない。 判っているのに、ベンチから立ち上がれなかった。足に力が入らない。石造りの固いベンチに、何時間も腰かけていたせいか、お尻がすっかり冷たくなって、痺れてしまっていた。 ゆっくり道路へ視線を投げた。 虚ろな視界には、時折、車が行き交うのが見える。 爽やかな風が一筋、流れゆく。わたしの長い髪を、サラサラと揺らして通りすぎていった。 …元治はもう、来ない。 言い聞かせるように口の中で小さく呟き、それからわたしは一度、瞬いて、ゆっくり空を見上げた。 頭上に広がる青空は、とてもキレイで、 その中でキラキラと輝く太陽の光が、 醜く歪んだ気がした――― . 前へ |次へ |
作品目次へ 感想掲示板へ 携帯小説検索(ランキング)へ 栞の一覧へ この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです! 新規作家登録する 無銘文庫 |