《MUMEI》 . その日から、元治はわたしの前から姿を消した。 メールも電話も全部無視されて、連絡が全くつかなくなった。 事故や事件に巻き込まれているのでは、と心配したこともあったけれど、 共通の知人からそれとなく、元治が相変わらず元気でいると聞いて、安堵したのと同時に、 捨てられたのだ、と再確認することとなった。 そしてわたしは、 必要以外に外出することを避け、一日中家に引きこもり、薄暗い部屋の中で、 何故、元治に捨てられてしまったのだろうと、ずっと考えていた。 彼の前でご飯を物凄い勢いで食べたからかな、とか、寝ているときイビキとか歯軋りとかしてたのかな、とか、 そんな、些細なことで嫌われてしまったのかもしれないと、 わたしは毎日、泣いていた。 もっと女らしくしていれば良かった。 もっと可愛い仕草が出来た筈なのに、と。 どうしようもない後悔ばかりが胸を巣くい、 恋を失った悲しみに暮れ、自分の行いをただただ後悔するばかりの日々を過ごして、3ヵ月が経った頃、 突然、元治から連絡が来た。 『久し振り。元気にしてる?』 携帯越しに語り掛けてきた彼の抑揚は、以前と全く変わらない、のんびりとしたものだった。 わたしは最初、何も言えなかった。言葉が出て来ず、黙ったまま汗ばむ手で、携帯を固く握りしめていた。 『もしもし?皐月?おーい、聞こえてる?』 次々と投げ掛けられる言葉に胸が震え、気づけば瞳に涙が溢れていた。 「聞こえてるよ…」と、やっとのことで答えると彼は笑い、『良かった!』と朗らかに答えた。 『今、家にいる?近くまで来てるんだけど、出て来れない?』 懐かしい伸びやかな抑揚に、わたしは二つ返事で承諾した。 . 前へ |次へ |
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