《MUMEI》 . 待ち合わせに指定されたファミレスに大急ぎで向かうと、元治はすでにわたしを待っていた。 慌ただしく駆け込んできたわたしの顔を見て、彼は「変わらないね」と、にっこり笑った。 わたしが彼の向かいに座ると、まず、「…急に、ごめん」と謝ってきた。その台詞が、今日呼び出したことに対してなのか、それとも、わたしの前から姿を消したことに対してなのか、判らなかった。 真意を計りかねているわたしに、元治は真剣な眼差しを向けて、続けた。 「…でも、どうしても会いたかったんだ」 それを聞いた瞬間、 涙が零れそうになった。 『会いたかった』 元治は、そう言った。わたしも同じ気持ちだった。 なのに、何故? 何故、こんなに胸が苦しいのか。 何故、行き違ってしまったのか。 わたしには、判らなかった。 判るのは、ひとつだけ…。 顔を俯かせて、溢れそうな涙を必死に堪えながら、 わたしは、呟いた。 「今までのこと全部、ウソだったんでしょう?」 わたしに『付き合おう』と言ったことも、 それと重ねて、『大事にするから』と言ったことも、 最初に『ずっと気になってた』と言ったことも、 そして今、 『会いたかった』と言ったことも。 全部、ウソだ。 それしか、考えられない。 . 前へ |次へ |
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