《MUMEI》 . わたしの呟きに、元治は苦しそうな声で「ウソじゃない」と否定した。 「勝手なことして、申し訳なかったと思ってる。だからこうして会いに来たんだ」 真剣な彼の声を聞き、わたしはゆっくり顔をあげた。元治はわたしと目を合わせると、静かに身を乗り出してきた。 そして、急に失踪した理由を話し始めた。 「少し前から知り合った女の子に、色々相談されててさ…何か、付き合ってる男がどうしようもないヤツとかで…話を聞くうちに、いつの間にか情みたいなものが沸いて…。 皐月がいるのに、軽率だった。だから、別れた方がいいと思った…でも、実際に別れてみたら、もっと辛かった。 『大事にする』と言っておいて、結局嘘ついて、お前を傷つけることになって…頭がおかしくなりそうだった」 わたしは瞬いた。黙ったまま、彼の言い訳を聞いていた。 いや、 こんな話、言い訳にもなっていない。 そう思うのに、何故か突き放す言葉を口に出来なかったのは、 元治の苦しそうな表情を目の当たりにしていたからだ。 彼はわたしの目を真っ直ぐ見つめてくる。 「断言するよ。命懸けてもいい。俺はもう絶対嘘つかないし、二度と皐月を傷つけない」 彼のその台詞は、わたしの心まで真っ直ぐ響いた。その、印象的な眼差しと同じ強さで。 . 前へ |次へ |
作品目次へ 感想掲示板へ 携帯小説検索(ランキング)へ 栞の一覧へ この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです! 新規作家登録する 無銘文庫 |