《MUMEI》 「みんな、心配でついて来てるわよ。」 母さんに指されて後ろを振り向くと、七生が電柱はみ出てた。 「どこからついてきてた……」 「最初から。」 七生の後ろから乙矢も出て来た。 「俺、途中で抱きしめたくなった〜。」 あほ七生……途中、凄い必死だったのに。 「私は録画した〜。」 乙矢母がカメラを回していた。 「俺はスクワットしてた。」 七生のおじさんは無駄に鍛え続けている。 「あれ……木下君は?」 乙矢父が父さんを探している。 「俺がパシらせて、アイス買わせてる。」 父さんって、七生父によく動かされるよな。 「木下君たら……」 乙矢父の周りにハートが見えた。 「最近、変質者出てるから気をつけないとな。」 乙矢が俺の頭を触る。 「女性の一人歩きじゃあるまいし。」 俺なら合気道も習ったし。 「乙矢が変質者だよな。」 七生が間に割ってくる。 「父さんには敵わないよ。」 乙矢につられて、おじさんを見ると、いつもの柔和な笑顔で俺に微笑んだ。 なんだか、照れてしまう。 「二郎に色目使わないで。」 七生が引き離す。 「浮気性……」 乙矢がおじさんに罵倒する。 「違うって、娘とはいつも恋人同士でいたいという親心だよ。」 親心は分かるが、娘……? 「そういうことにしといてやるか。」 父さんが乙矢のおじさんの首にスイカバーを付ける。 「きっ……のしたくん!」 「わー!アイスー!」 七生のおじさんが二人に突進してゆく。 父さん達のバランスは、見ていて心地好い。 「何度この三人のアレに騙されたことか……。」 乙矢がぽつりと漏らす。 「自分自身も騙してるんじゃない?少なくとも俺達は愛されているだろうし。」 「やだ……七生が的確……お赤飯炊かなくちゃ。」 七生が抱きしめて肋を圧迫してきた。 「抱きしめるの刑。」 「やめろ、極刑だ。」 乙矢に止められて助かった。 前へ |次へ |
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