《MUMEI》

手に握りしめているソレを畑中へと突き付けながら状況説明を求めてくる小林
だが畑中としても一体何がどういう理由でこうなるに至ったのか
畑中はその理由を何となくだが理解していた
「……財産目当てって事か」
「は?」
「確かお前、親が残したもの全部相続したんだったな。なら、あの男の目的は九分九厘ソレだ」
「……金目のものなんか、持ってない」
理由が解らない、と訝しげな表情の小林
暫く考える事に頭を使い、だが
「……わっかんねぇ!一体何なんだよ!」
すぐさま、キレていた
どうにも短気な性分なのか、色々と喚き始めてしまった小林へ
畑中は溜息に肩を落としながら
「まぁ、その意見に関しては俺も同意だな」
「……俺、これからどうなるんだよ?」
「さぁな」
自身には関係のない事だ、と言い放ちながらも
やはり事の次第が気に掛る畑中
深々溜息をついたあと、何故か外出用にと身支度を整え始めていた
何処かへ行くかとの小林からの問いに
だが畑中は答えて返してやる事はせず
その手首をつかむと車へと連れ込んでいた
「……痛ぇ。テメェ、いきなり何すんだ!?」
「喧しい、黙って座ってろ」
喚く小林を一蹴し、畑中はエンジンを吹かす
急発進したその車が向かったのは
某所に立っている、屋敷
到着するなり、畑中はそこの玄関の引き戸を向遠慮に開け放っていた
「おや。これは和志坊ちゃま。お帰りなさいませ」
開けるなり一人の老婆と出くわして
畑中の知り合いなのか、その姿を見るなり深々頭を下げてくる
「……とみ婆、十年ぶりくらいか。元気してたか?」
「ええ。婆はご覧の通り元気にしております。所で今日は何用で?」
「ババアに多少なり用があってな。上か?」
「奥様ですか?ええ、上にいらっしゃる筈ですが」
その存在を確認すると、畑中は老婆へと程程に礼を伝え
小林の手首を掴むと階段を上がっていく
「ちょ……待てってば!一体何のつもりだ!?」
怒鳴る様に問い詰めてくる小林へ
だが畑中は何を返す事もせず
廊下を暫く歩き、とある部屋の戸を、勢い良く脚で蹴って開けた
「……もう少し大人しめに変えては来られないものかしら。和志」
勢い良く開き過ぎたソレにさして応じる事もせず
その部屋の主はひどく穏やかに畑中達へと笑んで向ける
畑中の母親である、畑中 時子
小林の手を掴んだままでいる畑中の様に
微かに笑みを浮かべながら
「……随分と仲良くなってくれたみたいね。母さん嬉しいわ」
その様を眺め見ていた
だがそれは、唯単純に双方の中について喜んでいるわけでは決してない
恐らくは裏があるだろう事を、畑中は予測立てる
「……そうだわ。和泉君」
徐に、母親は小林へと向いて直り近くへ
一体何かと訝しみ、警戒心をあらわにする小林へ
母親は唐突に頭を垂れた
「……ご両親の事、謝って済む事ではない事は解っているつもり。けれど今は、謝らせて……!」
何度も何度も頭を下げる母親へ
だが、小林は謝罪の言葉が欲しい訳では決してなかった
失ってしまった後でどれほど謝罪の言葉を戴いたとしても
失ってしまったモノは、二度と戻らない
「いらねぇ……」
「和泉、君?」
「そんな口先だけの言葉なんていらねぇんだよ!バーカ!!」
やりきれない想いばかりが段々と積もっていき
その許容量は、いとも容易くそれを超えてしまっていた
これからどうすればいいのか、どうやって生きればいいのか
何一つ考えられない
「……テメェら何か、死んじまえ!!」
結局、口を突いて出たのは悪態
吐くだけ吐き捨て、小林はその場を飛び出してしまっていた
「失敗したな」
「和志さん……」
「ああいった手合いのガキには、慰めの言葉なんてのは全くの逆効果だったな」
「そんな……。だったら、私はどうすれば……」
「どうすればあのガキに償う事ができるか、か。そんなこと、俺の知った事じゃない」
巻き込んでくれるな、と冷たく突き放すと
畑中もその場を後に
そして無意識に、小林の姿を捜す
一体何所へ行ってしまったのか
探さなくても別にいい存在だと思いながら

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