《MUMEI》 「どして?」 このままでは何も作れない、と続ける岡本 だが平田はそんな事はお構いなしで 更に岡本を抱く腕を強くする 「ちょっ……、平田先生!」 「大吾」 「え?」 「名前でちゃんと呼べる様になるまで離してやんねぇよ。どうする?タマ公」 「な、名前でって……!?」 「苗字ってなんか余所余所しいだろ。だから」 「だからっていきなり名前で何て……」 ハードルが高すぎる、と意義を唱える岡本へ 平田はその身体を一向に離そうとはしないまま耳元へと唇を寄せる 「何で?簡単な事だろうが。俺の名前、呼ぶだけなんだし」 「ちょっ……、耳元。くすぐったいってば!」 呟く声に吐息が含まれ、それが耳元に掛る くすぐったさに身を捩るがやはり離しては貰えずに どうする事も出来ず、平田の気が済むまでそのままで居てやろうと諦めた、次の瞬間 「お腹すいた〜。何か食べるものない〜?」 小森が、台所へと入ってきた 傍から見ても抱き合っている様にしか見えない二人の様に 小森が驚愕の叫び声をあげたのが直後 その声に他の二人もその場へと現れた 「馬鹿華!何騒いでんだ!?」 寝起きで不機嫌丸出しの岡部 葉でな音を立て戸を開け放つが 小森同様に、岡本と平田の様を見、瞬間止まる 「……イチャつくなら、余所でやれ」 暫く無言の後短く一言 その一言で岡本は更に慌て 大声で叫ぶ事をしながら平田を引き離そうとする 「……痛ぇなタマ公!何しやがる!」 「うるさいバカァ!それはこっちの台詞よ!」 「はぁ!?何だよそれ!?」 「何でもよ!いいから早く離して〜!」 恥ずかしさに顔を朱に染め喚く岡本 そんなやり取りが暫く続いた後 「皆さん、随分と楽しそうですね」 戸が開く微かな音と共に桜岡が姿を現した 次から次へと増えて行く目撃者に、岡本の焦りは最早ピークで 涙すら浮かべてしまう岡本へ 桜岡は相変わらず穏やかな笑みを浮かべて見せながら 「落ち着いて下さい。環さん」 「桜岡、先生……」 「雪路で結構ですよ。大吾とは、そういう話でもめていたんでしょう?」 すっかり説明出来ない状態に陥ってしまっている岡本へ 現状の大方を理解したのか、桜岡は益々柔らかく笑んで見せた 「恥ずかしがることはありませんよ。さぁ、どうぞ」 桜岡にまでも促され 状況は岡本を追い詰めていくばかりに 「……雪。追い討ち掛けてやんな」 おの状況を見るに見兼ねたらしい岡部 呆れた様な、困った様な表情を浮かべながら岡本の頭へと手を置いた 「岡部先生〜。何とかして〜」 動揺にすっかり涙目の岡本 救いの手が差し伸べられた、と安堵した その直後 「駄〜目なんだよ。高虎。これはと〜っても重要な事なんだから」 平田に捕らえられたままの状態で更に小森が飛びついて来来る 「ほら、タマちゃん。僕たちの名前、呼んでみて。……呼んでくれないと」 此処で小森は態々言葉を区切り 徐に岡本の頬へと手を触れさせ引き寄せると 「……このまま、キスしちゃうよ」 それまでの高く、子供の様に無邪気な声とは打って変わった低い声 男の色香すら漂わすソレに、岡本の動揺は最早ピークに 「……わかった!呼ぶ!呼ぶからもう勘弁して!!」 とうとう岡本は完全降伏 小森のキスはその寸前で止まっていた 「高虎、華、大吾、雪路さん!!」 四人の名前を息継ぎなしに一気に吐きだして 恥ずかしさの余り、岡本はすぐ様踵を返し対面式になっている台所のシンクの影に隠れる様に座り込んでしまう 「……環さん、拗ねてしまいましたね。どうするんです?大吾」 「ってぇ、それ俺に聞くのかよ!!」 「事の発端はあなたでしょう?という事で、後はお願いしますね」 何とか岡本を宥る様にと 桜岡の有無を言わせないその微笑みに 平田はどうしてかそれ以上何も言えなくなってしまう 面倒だと言わんばかりに舌を打ち、だが渋々平田は岡本の元へ 「おい、タマ公。取り敢えずは謝ってやるから、そんなあからさまに拗ねんな」 「何それ!全然謝る気ないでしょ!?」 「謝ってんだろうが!誠意込めて!」 「何所が!?」 最早何に対して腹を立てているのか岡本自身解らなくなってしまい 前へ |次へ |
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