《MUMEI》
湖畔の妖精
  
「疲れた?」
「ん…」

案内された部屋で荷物整理も済んでベッドに腰掛けていると、かなたが隣に座ってきた。

「ちょっと…な」
「ふ〜ん…」

かなたの足が俺の足に絡んでくる。

「何だよ…」
「ダメ?」

このかなたの”ダメ?”ってのは言ってしまえば”エッチしようよ”って意味だ。

でもこっちに着いてすぐだったし、それに真っ昼間からってのはちょっとな。

俺がその気じゃないのを察したのか、かなたはつまらなそうにベッドに横になった。



「そうだ!」
「ぅわっ、ビビった…んだよ!」

部屋を片づけてジャケットを脱ぐと、ラフな格好で持て余し気味にウロウロしていたら、突然かなたが寝転がっていたベッドから飛び起きて俺にしがみついてきた。

「お前はいつも行動が突然なんだよな…」
「武、いいトコ連れてったげる♪」

かなたはそう言うと、駄々をコネる子供のように俺の袖を引っ張ってきた。

「いいトコって、今からかよ〜」
「だってヒマでしょ?」

そうだけど…。

結構朝早くこっちに着いて、昼間に克哉さんの車でこっちに来てからかなたの親父さんと騒いで、その後に豪華な昼食が出て面食らって…やっぱスゲェんだなって、かなたを見ながらそう思った。

「お、おい大丈夫なのかよι…道に迷ってねぇか?」
「いいんだよ、ウチん家なんだから」

夕飯までには帰ると途中で会ったさっき一緒にはしゃいでいたお父さんに言うと、かなたは俺の腕をグイグイ引っ張って森の中をどんどん進んで行った。

それにしても…。

ウチん家って…。

ここまでだいぶ走ったような気がするんだけどな。

「どこまでが自分ん家なんだよ…聞くまでも無ぇかもしんねぇけど」

森を抜けると道があったり、そこを横切るとまた林ん中に入って行ったり。

川が流れてたり…。

山ん中じゃねぇの!コレ本当に家なの!!

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