《MUMEI》 「ふぅ…」 …………… それは佑香に言うべき言葉ではなかったかもしれない。 昨日、 クロは市立の試合を観戦したその時から、 この作戦は視野に入れていた。 しかし、 選手たちにはあえて別の言葉で伝え、 自分の真意を明かすことはなかった。 にもかかわらず、 クロが佑香に作戦の内容を伝えたのは、 罪悪感から逃れたかったからである。 少しでも心を楽にしたかったからである。 現在、 試合は赤高の優勢。 日高のカットが決まったことにより、 赤高の勝利は確定的になった。 勝利を確信した今だからこそ、 考えないようにしていた罪の意識がクロにのしかかる。 が、 本来勝負の世界に情が立ち入る隙などない。 目の前にいる相手の実力を認めているからこそ、 クロはこの作戦を選ばざるを得なかった。 それなのに罪悪感を感じるのは、 クロがまだまだ甘いという何よりの証拠であったのかもしれない。 …………… 「…よし10分。」 後半開始から10分。 「1年生行くよ。」 クロは当初の予定通りスタメンをベンチに下げる。 前へ |次へ |
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