《MUMEI》

「…はい。」



「そうか…」



「何でですか?」



「いや…


あいつも俺の教え子だからな。


ホントは行ってやりたかった。


例え嫌われてても…な。」



「…先生は先生で色々あんでしょ。


翔太もそれくらい理解できる奴っすよ。


だいたい翔太は大人全般が嫌いな奴だから!!


大丈夫!!


人間性では判断されてね〜よ。」



「はは…ならいいけどな。」



「きっとそうだから。」



「…古田にはずっとあんな態度取られたままだったからな。


けど俺があいつに会った最後の時、


古田は黒田と一緒にコーチをやると言った。」



「…」



「嬉しかった…」



「…」



「古田は引退前から後輩たちのこと考えてたからな。


根は優しい奴だってことはわかってる。


ただあいつは少し抱えてる物が人より多かった分、


余裕もなかったんだろ。


だからあいつはハンド部に失望した。


任せたはずのハンド部をあっさりと壊してしまったあいつらに。」



「…」 「ふん…」



「だからあいつがハンド部のコーチをやると言った時は嬉しかった。


俺は顧問としてはダメなとこが多かったけど…


最後に、


黒田にコーチを頼んだこと。


これだけは間違いじゃなかったんだな。」



「…そうっすよ。


クロがコーチやって、


あいつらは成長して、


けど、


クロ自身も、翔太も、


俺も…


皆成長できて…


ほんで…


救われたんだと思います。」



「そうか…」



西野は少し物思いにふけている様子だった。


ヤマトはこんなに多くを語る西野に驚いていたが、


それが少し嬉しくもあった。


そして…



「猪狩。」



「…まだ何か?」



「古田はお前のことも考えてたんだぞ。」



「…」



猪狩にはまた迷いが生まれる。

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