《MUMEI》

さっきまで和やかな雰囲気だった山男にわずかな陰が見えた。ような気がして、明智は心の奥がざわりとする。

「本当は、サプリ本人が説明するべきなんだけどな。あいつ俺に押しつけやがったから。
人間が持つはずのない力を持ってしまうのは、サプリのようなフェルと、人間が同調し過ぎてしまうことにあるんだ。」

「同調…」

「そう、人間もフェルも同じように、生命エネルギーを持っているんだ。別の世界の生命体であるのにも関わらずね。
この生命エネルギーは、とても複雑な波で表現されるんだけど、えーと、同じ趣味を持って会話が弾む人との関係を、『波長が合う』って表現することがあるだろう?」

「言いますね。」

「それは、大体の場合、生命エネルギーのほんの一部でもかすった場合であることが多い。指紋や声紋とか、まったく同じ人間はいない。って言うだろ?
それと同じくらい、もしくはそれ以上複雑な波形なんだ。イメージの話だけどな、ほんの数ミリかすった状態が、趣味が合う程度だ。そうそういないが、まぁ、人生80年と思えば、何人かはいるかな。って位の確率。」

ふむ、と明智は記憶を辿る。今までの人生で、友達はあまり多いとは言えなかったが、それでも気の合う友達がいなかったわけでもない。あれは波長が合っていたんだろうか?

「人間に対して、フェルは、もう少しだけ単純な波長を持っているらしいんだ。
それ故、波長がかみ合う人間とフェルはもう少し出会う確率が上がる。かみ合いやすいって言うのは、そのフェルの憑く集団が居やすい、もしくは居やすそうって事につながる。
だから、人間は自分とかみ合う波長のスレシルの下に集まる傾向がある。もちろん、地域的な条件の話もあるが、ある地域集団をとりまとめるフェルと、その下にある集団、それこそ学校なんかはそうだが、フェル同志の波長も近いんだそうだ。
よって、そこに住む人間の波長も少なからず似てくるし、その中から、さらに自分に近い波長を求めて集団を移動するから、小学校より中学校、中学校より高校の方が、より波長の近い人間の集まりになる。」

「それぞれが、かすりかすりの同調だから、そうやって集まった人間でも、多種多様の性格や趣味を持っている。ってことですか?」

なんとなく、明智は物理学の専門書を見ていた時に書いてあった波の原理を思い出しながら、想像と記憶を当てはめていって出た答えの正誤を確認する。
そんな感覚に陥ったのも、山男の説明が、なんだか証明問題の答え合わせの雰囲気があったから反射的にひきづられたと言うのもある。

「お、良い傾向だぞ?自分の中で解釈すればだいぶまとまり良くなるからな。ちゃんと当たっているよ。」

自分が教師の仮面を被りかけていた(教師なんだが)事に明智の反応で気付いた山男も、生徒に勉強を教えている時と同じ受け答えをしてきた。

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