《MUMEI》
生贄 3
ヘリコプターがゆっくり地上に舞い降りる。
アイが男と出てきた。
「さあ行くわよ」
探検隊のような格好をしているアイが、麻酔銃を持った迷彩服の男を従えて林に向かう。
「オランウータンが出てきたら迷わず撃ちなさい。麻酔銃なら躊躇なく撃てるでしょ」
しかし男は空を見上げると、立ち止まった。
「アイさん。もうすぐ暗くなる。夜の山道は危険だ。明日の朝にしよう」
「朝までなんか待てるわけないでしょバカ」
「バカ?」
男の顔色が変わる。アイはそんなことには無頓着で、髪をかきむしりながらイライラすると、いきなり怒鳴った。
「使えねえなあ。もういい! 腰抜けはここで待機してなさい。ほら銃を貸して」
銃を掴もうとするアイを振り払うと、男は麻酔銃を向けた。
「ちょっと何よ?」
「使えないってだれのことだ?」
「え?」
「使えないってオレのことか?」
アイは焦った。
「待ってよ」
「腰抜けとはオレのことか?」
「あなたは勇敢な戦士よ」
だが遅い。男は無表情でアイを見すえる。アイは両手を出すと後ろへゆっくり下がった。
「まさか撃たないでよ」彼女は素早く走ると、大木の陰に隠れた。「そこで待ってなさい役立たずのチキン野郎!」
「何!」
アイは笑いながら逃げた。
しかし。しばらくすると、ヘリコプターが上空に上がるのが見えた。
「嘘!」アイは血相変えて戻った。「待ってよ! 待って!」
ヘリコプターは無情にも飛んで行ってしまった。アイは茫然自失。空を見上げながらおなかに手を当てる。
「女の子一人、ここに置き去りにする普通?」
アイはムッとすると、勇んで山道に入って行く。
「こうなったら何が何でもマキたちと合流しなきゃ」

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