《MUMEI》

「エース、相手は特Aだからね、手加減も油断も無しだよ。」


最初から自分の側に控えていたヘルハウンドにミツは改めて言い聞かせる。


『わかっています。我等兄弟が揃おうとも、討ち果たすことは叶いますまい。』

それに続くように別のヘルハウンドが告げる。


『まぁだからと言って負けてやる気もしねーけどナ!』


『ジャック、マスターに口が過ぎるぞ。』


エースにたしなめられ、ジャックは居心地悪そうに舌を出した。


『戦略でも練るつもりか?私相手に?』


鼻で嘲る山羊に、ミツもまた鼻で笑って返す。


「どんだけ自分が強い気か知らないけど?そういう事言うヤツこそ痛い目みるよ?」


そうして、胸元から細い笛を出すと口にくわえた。


―ピィッ!

高い音が響く、しかし恐らく常人には聞こえぬ範疇だろう。犬笛だ。

それに応えるようにヘルハウンド達は散開した。


「さぁ、相手、してもらおうか?」


ミツの目が、細くすがめられた。


魔犬と山羊の咆哮が交差する。戦いの始まりだ。

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