《MUMEI》

「光くーん、嬉しい話と嫌な話どっちが聞きたい?」

うわあ、警戒してる警戒してる……。


「じゃあ嬉しい話……」

身構えられた。


「これから二ヶ月後までに入っていた仕事はキャンセルになりました、これから二人で旅行します。」


「えっ、本当に!」


「レコーディングです。」

二人でです……俺も泣きそうです。
突然、レコード会社と合併することになりその象徴に歌手としてデビューさせる俳優に光へ白羽の矢が立った。

光だけならまだしも俺の社交辞令を気に入った先方が勧誘してきた、断りたかったが、光は今のペースで頑張り続けると限界だったので、やむを得ず了承した。
今思えば会社の忘年会のカラオケ二次会に無理矢理拉致された理由はこれだったのだ。


「国雄歌うの……?俺の愛しい国雄が全国に知れ渡るなんて心配。」

そのままお返ししますよ。


「ライブはしないって条件にしている。アンサーソングを俺達の発売した次の月に出すからその人達にお任せする。」

顔出しは勘弁して欲しい。


「国雄は美声だもんね、さぞ上手いでしょう……そういや俺達ってカラオケ行ってなかったよな。映画や遊園地にキャンプに夏祭りやスキー……。」


「クレープ半分ずつ食べたり?」


「半分ずつしたい、食べたい。ポップコーンもフランクフルトもバーベキューもりんご飴に氷柱も食べたいな。」

氷柱は腹壊すだろ……。


「うん、食べたいね。」

絶対、食べ物じゃ足りなくなるだろうけど。


「……今、エロいこと考えたでしょう。」

見透かされた。


「どうして?」

はぐらかしてみる。


「俺がそう考えたから。」

彼は正直者だ。
嘘を付けないせいで、誤解も生まれるが、何事にも意識が高く努力家である。
そんな彼を好きな人間は業界人では限られるが、決して少ない訳ではない。

光とは、新しい高級外車で空港に向かうだろう。
彼の父親からの遺産だと棗さんから受け取った。
思えば、彼の父親も彼を愛したかったのかもしれない。

父親は棗さんに「一流の人間は一流の物を使え」と言っていたそうだ。


また、俺の車を配送車とも言ったそうだ。
要らぬことだ。

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