《MUMEI》

「荷物チェックしてないみたいだな」
意外に思いながらユウゴは呟いた。
昨日の今日だというのに、向こうは警戒してないのだろうか。
いや、昨日の今日だからこその油断かもしれない。
二日続けてユウゴたちが現れるとは思っていないのだろう。
ユウゴはそう自分を納得させてケンイチと共に横断歩道を渡った。
ゆっくりとした人の流れにのって会場の入口へと向かう。
まずケンイチが入口の扉を入る。
その後に不自然に思われない程度に距離を詰めて、ユウゴも続く。
スーツの男はとくに疑うわけでもなく、ただ興味なさそうに公民館へ入って行く人の流れを眺めていた。
中ではテーブルに記帳するよう促された。
ケンイチは一度こちらを見てからテーブルに向かう。
ユウゴもその隣に立ってペンを取る。
どんな名前を書こうかと考えながらケンイチの手元を覗いてみると、彼はまるでサインでもするように汚く文字を綴っていた。
そして書かれた名前はカタカナで『ハドウケンイチ』だった。
「なんだよ、それ」
思わず声をあげたユウゴに、ケンイチはニヤッと笑みを投げてさっさと会場へ入って行ってしまった。
ユウゴも考えたが、いい名が浮かばず適当に先に書かれてあった名前を組み合わせて記帳した。

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