《MUMEI》

そして岡本へと頭を下げると校舎の中へ
「で?お前」
桜岡が確実に校舎に
入ったのを見届けた後
岡部が徐に岡本の故脇を指で差してくる
「さっきから持ってるそれ、何だ?」
岡部が差す方を岡本も見て見てみれば
「……雪路さんに、渡し忘れた」
桜岡に渡すはずだった資料がそのままになっていた
どうしたものかを暫く考え、そして岡本は徐に踵を返す
「環?」
「私、これ渡してくる!」
「はぁ!?ちょっと待て、環……!」
顔を引き攣らせた岡部が引き止めるより先に
岡本は踵を返し走り出していた
「大丈夫!さっき来た道を戻ればいいんだから!」
そう意気込んで、来た道を戻っていたつもりだったが
「あ、あれ……?」
結果は残念な事に
やはり道に迷ってしまい、進む事も戻る事も出来なくなってしまっていた
「どうしてまた道に迷っちゃうの〜!?」
自分自身がひどく情けなく感じ
どうしたものか途方にくれていると
「おや、何か忘れものですか?環さん」
背後から桜岡の声が聞こえてきた
つい先程職員室に送り届けた筈の桜岡が何故此処に、と訝しんでいると
ソレに気付いた桜岡がまた困った風な笑い顔をしてみせる
「……これから授業なので、教室へ向かおうと職員室を出たのですが、また道に迷ってしまった様で……」
「雪路さんもですか……」
「という事は、環さんも?」
「はい。コレ、渡し忘れたの思い出して、それで……」
漸く資料を手渡してやれば
有難うございます、と穏やかに礼が寄越された
「さて、それでは資料も戴いた事ですし、頑張って教室に向かいましょう」
「はい!」
張り切っては見るモノの方向音痴二人組
目的地へと辿り着くだけでも容易ではない
このままでは桜岡が間に合わなくなってしまうと慌て始めてしまったその直後
茂みから何かが動く音が聞こえ
様子を伺って見れば其処に
先程桜岡が戯れていた子猫がいた
二人の前へと立つと、まるでついて来いと言わんばかりに二人を先導し始めていた
「付いて行ってみましょうか」
どうせ駄目元だ、とその猫の後を追ってみる事に
細い獣道を、何とか猫の後ろを付いて歩き
そして到着したのは
奇跡的にも校舎の前だった
「つ、着いた……」
安堵につい声を漏らせば
猫が二人へと向いて直り、可愛らしい声で鳴く
まるで褒めてくれと言わんばかりのソレに
桜岡はその猫の前にか膝をつきながら
「有難う御座います。本当に、助かりました」
頭を撫でてやりながらの礼
猫はソレに返事を返す様に小さく鳴くとその場を後に
「では、私は授業に行きますね」
「校舎の中で迷ったりしない様気を付けて下さいね」
「はい。環さんも気を付けて」
互いが互いに注意するよう促し合い、そして桜岡を見送った
岡部がしていた様に桜岡が校舎に入るまできちんと見送り
そして踵を返す
「よし!寮に戻ろ!!」
無事戻れるようにと内心祈りながら
岡本は意を決して家路へと着いたのだった……

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫