《MUMEI》

「実は、昨日から迷っていて……。」

内館さんの細さは窶れているせいなのか。

「まず上らないと……。」

見上げると大きな岩壁が広がっていた。


「どうしようか、飴ももう少なくて……」

ポケットから飴を取り出した、どうやら野宿覚悟だ……。


「どうやって寝ていたんですか?」



「岩の隙間に丸まってた。」

……早くこの岩を越えて助けを呼ぼう、内館さんが衰弱してしまう。
フードから見える細い首筋を見て危機感が募った。


「……あれ、内館さん、何かまだポケットに入ってませんか?」

もしかして……!


「うん、桃かと思ったんだけどボールだった、珠緒君も流れてきたとき桃に見えちゃった。」

やっぱりだ。


「それ、探してたんです!」

千秋様が投げたボールだ。
内館さんから手渡されたボールは空気が抜けていてぶよぶよだ。
手で押すと余計にボールが小さくなってゆく。


「ねえ、なんか入ってない?まさか……桃?」

内館さんが空腹のあまりに大変なことになっているが、確かに固いものが入っていた。


「これは……なんだか小さい電子機器?」

精密機械みたいだ。

「いや、これ、多分、桃……!」

少なくとも、内館さんが言うような食べれるものではない。


『食べれないモモです。』

電子的な声が聞こえた。


「……新井田さん?」


『当たりです。』

聞き覚えのある言い回しに少し安心した。


「ぼく、川に流されて遭難してしまって、同じく迷ってる人に会ったんです、ぼくより長く出られずにいて……もう、どうしたらいいのか……」

涙を堪えて状況説明する。


『珠緒君、泣かないで。もし、まだ川の付近にいたなら人が一人入れそうな窪みがありませんか?もしかしたら、それは近道かもしれませんよ?』

意味深な言葉を残し連絡が途絶えた。

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