《MUMEI》

豪華だから、高いからと言うのではなく、僕は昔から人と一緒に食事をするというのが苦手で、給食でも緊張して喉を通っているのがじゃがいもなんだかボールなんだか分からないくらいだった。

「緊張してるのか…」
「あ…すみません」

こんな高級な所に連れてきてもらったのに、そんな事ではいけないとあまり色々考えないようにした。

「でも大丈夫ですよ♪」
「そうなのか、良かった」

僕の笑顔に返してくれた今の克哉さんの笑顔で、幾分か気分が楽になってきた。

そこで楽になったついでに、ちょっとさっき気になった事を聞いてみた。

『なんで…試着室で僕のお尻ばかり触ってきたんですか///』
「お尻?」
「ぁ///」

僕は勇気を振り絞って小声ではあったけど、克哉さんは『何の事だ』と言うようにポカンとしていた。

「あの…///」
「すまなかったな、そんなふうに思わせてたなんて…」
「ぁ…違ったんですか///」

当の克哉さんにそんな意識はさっぱり無かったみたいで、僕一人だけが勝手に恥ずかしがっていたみたいだった。

勝手に思いこんで、勝手に恥ずかしがって…僕って何でこうなんだろう。

克哉さんが触ってきたのは試着室の中だったし、それにあのくらいサイズを測る時に店員さんだって触ってくるだろう…多分。

「アキラのスタイルで一番いい所は腰の辺りだからな、そこが一番美しく見えなくてはね」
「…あぁ…ぁ///」

思い過ごしではなく…感じ過ぎだったのか…。

「あぁ…やっぱり女装させてくるべきだったかなぁ…」
「絶対に嫌です///」

克哉さんはこうやって事あるごとに僕に女装させようとしてくる。

この前も下着の入っている棚を開けたら女性用の…ランジェリーが入ってて僕が驚いている様子を後ろからじっと見つめていたので、そんなに見つめられても女性用の下着なんか履きませんよ、と言うと残念そうにしていたのを思い出した。



その夜、恥ずかしすぎて倒れそうだったのを我慢しながら下だけランジェリーを身につけると、寝ていた克哉さんの布団をめくり、寝息で上下する分厚い胸板に頬を寄せてゆっくりと楽しむように頬ずりをした。
  

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